bussorenre Laboratory

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心理的安全性を生み出すスクラムマスターのムーブ

@bussorenre です。 ここ二週間くらい、プロジェクトマネジメントとディレクション、開発チームの組織の仕方、運営方法などについて色々回したり考えたりしてました。

心理的安全性とはなにか?を定義する前に、自己組織化されたチームについて説明する必要がある。

自己組織化されたチームとは、例によって江端先生(@ebacky)の言葉を借りると以下のような形になる。

 - チームのゴールが明確であること
 - チームの仕事や裁量の境界が明確であること
 - チームメンバーが,自分たちのやるべきことを自分たちで1秒以内に決定できること

そもそも自己組織化とは、あるランダムな状態にある構成要素が、構成要素間に働く相互作用により自発的に特定の秩序構造を形成する現象のことで、要するに統制する人(いわゆるプロジェクトマネージャーとか)が存在しなくても、自発的に何らかの目的のために自走し続けるチームを「自己組織化されたチーム」と称する。

チームメンバーが次何やるべきかを即決するためには、「チームあるいはプロジェクトの状態」が一瞥しただけで完全に理解できる状態でなければならない。アジャイルボード・カンバンなど、様々なタスク管理方法はあるが、それらは所詮ツールでしかなく、基本は「ほうれんそう」で、JIRAとかTrelloとかgithub issues に乗ってくるチケットリストはその副産物に過ぎない。

この情報共有の精度の高さ(抜け漏れの無さ)と心理的安全性の高さは非常に高い相関があると考えている。

上手く行っている時は良いのだが、上手く行っていない時に正しく情報共有されるかが非常に重要で、ミスや失敗や目標不達などを、きちんと周囲に共有できるか、また、それを良しとする心理状態にチームがなっているかが、心理的安全性の高さだと思われる。

この問に対して具体的な解は無いものの、ヒントのような、今までの試行錯誤から得たバッドノウハウが蓄積されてきたので共有します。

前提:チーム構成やメンバー構成など

組織の構成から考え直さないといけない、致命的なケース。

POとスクラムマスターを同一人物が兼任しない

スクラムの基本にして超重要かつ、これが達成されただけで問題の半分は解決すると思っている問題。散々スクラムで「POとSMは兼任しては行けない」と言われているのにも関わらず、結果的にスクラムマスターがPO的なムーブをしていたり、POがスクラムマスター的なムーブをしてしまうケースが非常によくある。

そのような事が発生する理由は多岐に渡るが、基本的には「スクラムマスター」というロールへの周囲(あるいはスクラムマスター本人)の理解不足が原因だったり、大企業において、どうしてもピラミッド構造の組織構造を作る必要があり、メンバーの上にスクラムマスターを担う人が位置付けられており、評価者を兼任してしまっている場合などがあげられる。POはROIに対する権限と責任を持つが、それ以上の権限はない。スクラムマスターに至っては、そもそもプロジェクトに対して何一つも決定権を持たない。

友人がアドバイスしてくれた「POとSMが兼任するとなってしまった場合、それはもはやただの圧にしかならない」という言葉にはかなり納得感がある。圧になってしまうと、チームが萎縮してしまい情報共有が素直になされない。

対策としては、上長含めチーム全員にスクラムについて学んでもらう(そのために資料を用意したり勉強会を行ったり研修の予算を確保したりなど)のが最も効果的だと思われるが、これはなかなか難しいし骨が折れる。端的に言って面倒くさい。

しかし、これを行うのもスクラムマスターのムーブの一つだと思う。

先程も説明したとおり、スクラムマスターにはプロジェクトに対しての決定権が何一つ無いのだが、POを兼任しているとなると、ROIの優先度高の項目に「チームのスクラムへの理解の向上」というプロダクトバックログアイテムを追加できると思うので、真摯にやってくしかないと思う。また、自分が上の立場に立ってしまったら、権限の委譲(そもそもスクラムマスターのロールを他のメンバーに委譲する)というのも視野に入ってくるだろう。

メンバーのスタンスが育っていない

これも基本にして重要な話なのだが、スクラムは「すべてのチームメンバーが、バックログやチーム・プロダクトの状況を見て判断行動できる」という前提に成り立っている。このスタンスに関しては研修プログラムや各社の人事評価精度によって様々な表現方法があると思うが、リンク&モチベーションの研修だと「STARの観点」と評されていたり、リクルートの評価指標だと「6つのスキルと4つのスタンス」等と呼ばれていたりする。つまり「上司からの指示がないと動けない」といったメンバーが居ると、そのメンバーは「チームに属している」と言えない。

また、この「スタンス」に関しては後天的獲得が難しい(歳を取れば取るほど習得が難しい)と考えられており、実際の肌感として自分もそう思う。(同じ人でもタイミングによってスタンスを発揮できない状態になってしまうことはある。例えば過労による燃え尽きであったり、病気等の体調不良であるなど。それら障害となっているポイントを見極め取り除くのは、スクラムマスターの仕事だと思う。)

対策としては、採用時にふるいをかける以上に効果的なものは無いが、「スタンス面が足りていないな」と思う人材が、精神的に若手であればあるほどチャンスは大きい。 「精神的に若手」とはどういうことかと言うと、「周囲の同僚にリスペクトを持ち、学び成長をを得ていこうとする姿勢」を持っている人材のことで、逆に言うと年齢が若くても学ぶ姿勢がない人はかなり厳しい。

スクラムマスターとして出来る事の一つに、自分がどういう働き方をしているのかを魅せるというのがあると考えており、スタンス面で未熟なメンバーのロールモデルの一つになるというのが唯一のムーブだと思われる。

日々の行動

前提の2つが解決すれば問題の80%以上は解決しているが、より具体的な行動指針として、意識してか無意識でかで、自分がやっているムーブは大きく以下の3つ

チームメンバとしてのロールを持つ

これは、スクラムの原則とは多少少しズレたところにあるが、POとSMの兼任ほどのバッドノウハウではない。スクラム体制の構築が甘かったり、周囲への理解を深めていこうというフェーズに有効。「あいつあれこれ言うだけで1行もコード書かねーじゃね―か」と言われるのを阻止する。

チーム内で最も技能や知識が豊富なエンジニアでありたいと思うが、そうでなくてもいい。むしろそうじゃなかったから良かったのかもしれない。周囲の同僚にひたすらコードレビュー等でミスや問題を指摘されまくってるからこそ良かったのかもしれない。

上手く行ってない時に、「上手く行っていない」と自分が言う事ができる。というか、そもそも自分がそれをできていないなら、心理的安全性の高いチームとは言えない。ミスったなと思ったら「ミスりましたすみません」というムーブを見せることが出来るので、スクラム初期にはチームメンバー兼任はむしろ良いムーブだと思う。

が、正直、率直な同僚の評価を聞いてみたい気もする笑

自分の弱みを見せる

例えば、僕は生活リズムが超乱れやすい。朝6時くらいから始業している時期もあれば、13時まで起きれない時期もある。が、この業界朝弱い人が比較的多いので、「わいも朝弱いんすよー」「じゃぁ定例遅めに設定するか」みたいな会話が出来る。

これに関しては、自分が意識してやってきたと言うより、同僚に自分も乗っかることが出来た。という側面のほうが大きい。彼らが居なかったらここまでフリーダムな会議体の設定は出来ていない。

簡単に書いたが、「自分の弱みを見せる」というのは実は非常に難しく、周囲に弱みを肯定してくれる同僚がたくさんいたからこそ出来たと思う。そうじゃなかったら出来ないし、出来なかった。「bussorenre くんなら出来るよ」というエンカーレッジを周囲の人がたくさんしてくれたからこそ、今のロールを担えている側面もあるし、自分も「〇〇さんなら出来ますよ」みたいなエンカーレッジをし続けていたいと思う。

サーバントリーダーに務める

多分、無意識でやっている。

よく自分はトイレ掃除に喩えるのだが、トイレ掃除なんてものは誰もやりたくない。しかし、誰かがやらないとアメニティが下がる超重要タスクで、正直、やってもまるで評価されない。直接的な営業成績が上がるわけでも、トイレ掃除をしたからコードが改善されるわけでもないから。

ソフトウェアエンジニアにおいても、トイレ掃除にあたる仕事があり、その主たるものの一つに「マネージャー」と呼ばれるロールのタスクがあると思っていて、他の業界は知らないけど、この業界はマネージャーになってもあまり良い事がなく、むしろ自分でコードを書く時間が相対的に減ってしまったり、そもそも人間と付き合うのが苦手だからソフトウェアエンジニアやってるのにどうしてみたいな、色々な闇の側面が強い。

が、誰かがこのあたりを整えることによって、他のメンバーが快適に業務に従事できたりする。「マネージャー」というロールのタスク以外にも、あれこれアメニティを上げるタスクはあると思うが、組織やビジネスの成長フェーズによってかなり違いがあると思うので具体的に何をどうするか?は一概には言えない。「全体を俯瞰して、影になっている部分に光を当てる」くらいの感覚なのかなぁ…?

冒頭この項目で「無意識にやっている」「評価されない」と書いたが、冷静に考えると、現状の自分はかなり評価してもらえている環境に居ると思っていて、だからこそ、特に意識せず、目の前の影に光を当てるというタスクに従事出来ているのかもしれない。

まとめ

色々偉そうな書き方をしてしまったけど、正直これが最適な方法なのかと言われると相当な疑問が残る。ここに書けなかった失敗したなと思う事もたくさんある。実際の評価は同僚に闇ブログとかを書いてもらうしかわからない。大事なことはチーム全体の一体感だと思っており、これが「なんか体育会系みたいで湿度高くて嫌だ」と思われる主原因でもあると思う。しかし、一体感を得たチームほど強いものはないとも思っており、いわゆる「一人の集合ではなくチーム」になれるのかなと思っている。

そのためには、ある種「弱み」みたいなものをちゃんと見せつつ、メンバーの弱みを理解しつつ、それでもなお結果を出すにはどうしたら良いか?を考えて行動できる人は真のスクラムマスターだと思う。正直全然できている気がしないが、それでも真摯に向き合っていくしかない。

あと、後半は書きながら「あれ、これ自分の力じゃなくて周囲の力じゃね…??」と思いながら書いてた。実際、周囲の力があってこそなりたってると思う。この点に関しては、「つまり、あなたの職場環境が素晴らしいと言う事ですよね?」という問いに対して「はいそうです」としか言えない。いい職場です本当に。

自分もその「周囲の力」の1因子だと言うことで、その1因子がどういう動き方をしているのかを言語化したら、こんな感じになった。ということでどうかひとつご容赦ください。